2005年02月22日

戸澤土佐守正令『国体本義諸篇』 (福井久藏撰輯 秘籍大名文庫)

文學博士福井久藏撰輯 秘籍大名文庫
戸澤土佐守正令
『国體本義諸篇』(webcat
東京麹町厚生閣版

國體本義諸篇目次
皇朝魂辨
 倭魂序
 皇朝魂辨
月の光
大日本號之説
ことばのひとや
天つかな木附録
尊内卑外論辨
外戎逋貢本意
述懷論第一條
道の辨
 御路の辨
 道の辨
 つけていふ
神代正古傳
神代訓讀篇
倭名義考
神社略説
八神略説
八柱の御惠
神代紀一書通覽
古語拾遺傳
御曾支


tozawa_kokutaihongi.pdf

 鈴屋翁の學風を慕ひ尊王の志の篤かつた戸澤正令侯の草稿中より、國體の本義、古道の發揮に關するもの十八篇を撰んで、新に「國體本義諸篇」と題し、秘籍大名文庫の第一篇とし、その裔孫戸澤正己子欝の許諾を得て世に公にするこ丶となつたのは、不肖の欣幸とするところである。蓋し隱れたる尊王愛國の一大名を博く世に紹介し得ると信するが爲である。

戸澤家の系譜を録してある「戸澤の眞清水」によると、侯は大和守正胤の第二子で、文化十年に芝の森元町の邸に生れ、文政十二年父の逝去により十七歳で家督を襲ぎ、從五位下に叙せられ、能登守と稱した。夫人は薩摩藩主島津重豪公の愛女で幸子といひ、貞淑の譽の高かつた人である。天保十四年侯は病に罹りて世を早くし、嗣子中務大輔正實がその後を繼ぎ、維新の際には、會津藩などが主導となり、奥羽二十藩が連合して官軍に抗した時、新庄六萬八千石の地を以て秋田の佐竹侯と共に王事に勤めたのは、正令侯の庭訓の力が與つてゐることは看過してはならないこと丶思ふ。
 侯は幼時好學なる祖母の感化を受けたことが少くなかつた。祖母の名は瑞子といひ、彦根藩主井伊直中の女で、縣居大人を慕はれ、村田春海の教を受け、歌文を善くされた。正令侯はそのゆかりで始は村田たせ子に學ばれたが、後齋藤彦麿に從はれてより、鈴屋大人をおのが祖師と仰ぎまつり、國體に關する幾多の小論文をつゞり、彦麿の批評を請はれたもので、國醴の本義に反する學説は抵撃し盡さねば止まない概があつたのである。沼田順義が「國意考辨蒙」に對しては「ことばの囚屋」を著し、市川匡が「まがのひれ」に對しては「天つかな木附録」を著し、また某の「神道蔀障辨」に對して御曾支を著し、村田春海の著に對しても窓の雪の説を破する爲に「月の光」をものされるといふ風で、歌道その他に就きても香川景樹、高田與清、野々口隆正の書を評するなど、その氣魄の熾烈であつたことが分る。その家集「稜威舍集」には國體の本義に關した作が少くない。國號考附録の卷頭に載せた作には
 日の出づるところと宣りし昔より光かはらぬ國の大御名
の如きがあり、獨述懐には
 世の人のさかし心を神の代のなほきにかへす教ともがな
と詠じ、國家の上を考へ物思に沈んでゐる時、齋藤彦麿の訪らひ來つたのを喜んで、
 くづをれしうさも忘れてけふしもぞ大和心のものがたりする
と心境を叙し、寄道祝のこ丶ろをば
 皇神のつくりかためし道ならで世にさかゆべき道はあらめや
と高唱し、唐船の來る繪に賛しては
 みつぎする船かぢほさす海の外のみやつこ國そこ丶らまゐ集る
と題し、孔子を詠じては
 時にあはぬくじに見せばや治まれる御代はつねなるすめら御國を
の如く、國民精神振興に關する詠吟が少くない。侯の稜威舍には誦すべきものが少くない。

 次に收載した十八篇の梗概を舉げる。

 一、皇朝魂辨

 我が國民は皆神の御裔であつて、心は直く雄々しく猛くして曲り僞るところなく、忠孝信の三つは古來よりの大道であることを述べ、日本精神を明かにしたもので、齋藤彦麿の序を加へてある。附録には御曾支の一篇がある。

 二、月の光

 村田春海の窓の雪を破したもので、漢學を旨とせる醫師と一問一答一論一駁の體を用ゐて皇道を明かにしようとした一冊子で、皇道は古より實際上存在したこと、支那では皆人の尊崇する舜の如きも君臣の道缺けてゐることより筆を起し、和魂の意義を説き、谷秦山、谷川士清、栗山潜峰、太田錦城等の著書を引いて、支那の國風の宜しからぬことを論じ、皇學の要を示したもの。

 三、大日本號之説
 本居宣長の「國號考」の附録として、大日本といふ名稱の起原、大の字の義、對外關係上使用し來つたことを考證したもので、天保十二年五月五日に成つた。別に「扶桑考」があるが、これは全國の名でなくて九州地名の一名としてある。

 四、ことばのひとや
 賀茂眞淵の「國意考」に對し、沼田順義がこれを駁しようと「國意考辨蒙」を公にしたるを慨し、自ら司直の地位に立ち、その罪を勘へ、言葉の囚屋に入れむとの趣旨で、前書の條々を舉げて一々辨駁を加へたるもの。自序並に齋藤彦麿の序がある。

 五、あまつかな木附録

 市川匡が「まがのひれ」を著し、儒教の立場より本居宣長の直日靈を誹れるに對し、沼田順義はうはべは市川の説を破するやうで、實は鈴屋翁の直日靈及葛花をあしざまに評してゐるのを慨し、齋藤彦麿の天つ金木の附録として彼の説を論駁せしもの。

 六、尊内卑外論辨

 儒者が支那崇拜の餘、彼國を中華と書けるのを慨し、馭戎慨言等の説に基き、保建大記、大日本史、閑田耕筆その他の書を引き、國軆觀念を強く保持せしめん爲にこの説を述べたもの。「天の岩屋門」と題した一本と内容は同じものである。

 七、外戎通貢本意

 崇神天皇及垂仁天皇の朝に外國の通貢のあつたのは、大物主神の神慮に出たことを説き、當時疫癘が頻に流行して國民の死するものが頗る多かつた事から、外人の歸化をゆるされたことなどが説いてある。

 八、述懐論第一條

 一篇の政治論で、當時の諸侯は病人を手がけぬ學醫の如きものと喝破し、その多くは儒者に問ひて漢土の事を知るのを以て得々としてゐる弊を論じ、けん園學派の弊を舉げ、諸侯の務むべき政道を読き、諸臣を撰用すること、農工の道を述べ、吝儉の別を説き、克く皇國魂を養ふべきことを論じたもの。

 九.道の辨

 契冲阿闍梨、縣居翁、鈴屋大人の教に基き神道を興し、儒道佛道の曲れるを正し、皇國道を明かにすべきことを論じたもの。齋藤彦麿の序を加へ、天保六年九月十六日に成る。附録には人魂のゆくへの論を添へてある。鈴屋翁の人は死ねば魂は黄泉へゆくと説いたのを平田篤胤が「靈の眞柱」にこの世に留まると論じたのを更に反駁してゐる。

 十、神代正古傳

 一名を伊都屋神代訓といふ。服部中庸の「三大考」、平田篤胤の「三大考辨々」の説を批判し。自家の見を述べたもの。

 十一、神代訓讀篇

 天の御國につき、服部中庸、平田篤胤の説を斥け、次に夜七夜日七夜云々の古傳説に關し、篤胤の古史成文には西洋流の説明をなしてあるのを難じ、高天原に關する三大考の説を非とし、葛花の説を據とし、皇國外國及海の成立竝に大の質等につきて論じたもの。

 十二。倭名義考

 倭の名義に關し、荒木田久老が本居翁の山處《ヤマト》又は山富《ヤマト》の義と読いたのを難じ、家庭處《ヤニハト》が本義と論じてゐるのを非とし、別に山留《ヤマト》の義ならんと立説したもの。

 十三、神社略説

 記紀、古語拾遺等の古典を引いて、天照皇太神の伊勢の鎭座に至るまでの事を録したもの。

 十四、八神略説

 宮中に奉祀されてある八柱の神に關し、その神名の由來、神徳竝に祭典のごとその起原等を述べたもの。

 十五、八柱の御惠

 玉緒結の義を説き.長子太郎の君の病篤く、醫の投藥の効も見えなかつた時,この法により病の怠つたことを舉げ、八柱の紳の恩頼を謝した文で、末には齋藤彦麿の玉緒結に關する記事を附載してある。

 十六、神代紀一書通覽

 我が古典の中、日本書紀の研究として谷川士清の「日本書紀通證」があるが、神代卷は漢土の風に倣つて解説してあるのを不滿とし.紀の一書傳には種々の差別あることを述べ、別に書紀傳を撰む目的で執筆されたもの。但し現存するは唯「この書作れるあらまし」の一條だけで、未定稿のものであるが、別に一書傳の註が存してゐたかは不明である。

 十七、古語拾遺傳

 古語拾遺の評釋を志された時の稿にて、一聞、開闢、伊弉諾、伊弉冊二神の三項だけにつきて述べてある未定稿のもの。

 十八、御曾支

 さる人の漢學の見地から本居翁の直日靈を難じて「神道蔀障辨」を著したのを、道の爲あるまじきこと丶し、六段に分けて辨駁したもの。
      ×     ×     ×
 侯の著述は未定稿のま丶のものも、斷片的のものが多いが、それは壯年にして歿せられた爲で、天がもし壽を借したならば完成したであらう。併しこれらによりても侯の意圖や努力の一斑を窺ふことが出來る。猶侯の歌集などを併せると、七十餘部を算することが出來るが、やがてこれが全集を出し侯の全貌を示さうと思ふ。

凡例
一、各篇の題名は原本には扉として各表紙に記せるも體裁上本文の最初に掲げた。
一、原本には原文の脇に侯の師事された齋藤彦麿の加筆訂正した文が併記してあるが、本書には訂正文を採用した。
一、齋藤彦麿の評語竝に賛辭には署名のないものは上に(彦云)を加へて、本文と紛れざるやうに區別をした。
一、原丈には句讀を施してないが、今讀下す便宜の爲に新にこれを加へた。
一、假名遣竝に漢字は可成的もとのま丶となした。但し.活語に助辭の加はつてゐる場合に活語の語尾を送らないものがあり、知らす、知らず、或は見たり、見えたりの如く意義の混亂を來たし易いものはこれを挿入した。
一、文中清音にして濁音なるべきものは之を濁音に改めた。
一、第十「神代正古傳」中に圖數個あるが、これは新に謄寫したもので、原本より寫眞にしたものではない。


祕籍大名文庫刊行の辭
 近時古典研究熱の昂まるにつれ、古書覆刻の要求が益々盛んになり、巷間、この種類書の刋行さる丶ものが決して尠くはないが、本文庫の如く、寫本の世に一部或は數部しか存するものなく、然も、今日筆寫さへ容易にあらざる稀覯本を主としたる覆刻の如きは,未だ行はる丶に至らす、識者をして失望せしめること多大であつたが、弊閣こ丶に稽ふるところあり、古書の藏書家として學者間に於て垂涎の的となり,又古典知識の第一人者として一代の碩學たる福井久藏博士に諮り、今漸く「祕籍大名丈庫」の刋行を見るに至つた。
 刋行書目は、寫本として數十金を投じてもなほ今日購ひ得ざる珍本を主とし.百金を以てしても手にし得ざる板本を混へ、中に、その道の學者にすら、未だその存在を知られざる絶品さへ幾多收載されてゐることは、本文庫の窃に誇とするところであり、また、種目は凡る部門に亙り、單に古書の蒐集といふ一點のみよりこれを見るも、絶版の曉には、幾倍或は幾十倍の市價を呼ぶもの丶多數含まれてゐることは、本文庫の持つ本としての特異性であると信する。
 宛も本文庫は、博士が畢生の大著たる弊閣版「諸大名の學術と文藝の研究」中に擧げられつ丶も、然も世人の眼に觸れたることなき珍籍の覆刻であり、該書と文庫と兩々相俟つて、こ丶に絢爛たる徳川文化の全貎は識者の前に初めて今日明かにされるであらう。
 大方の御支持を期待して已まない次第である。                厚生閣主

秘籍大名文庫
第一期刊行豫定書目

國體本義諸篇 戸澤土佐守正令著

治教秘録 黒田豐前守直邦著

兵法家傳書 柳生但馬守宗矩著

大東婦女貞烈記,松平鸞岳公子著

藝苑漫筆五種 松平樂翁公著

蝦夷嶋奇觀補註 松前志摩守徳廣著

松秀園書談 増山河内守正賢著

本草啓蒙補遺 黒田樂善侯著

菊經  松平大學頭頼寛著

鷹山公婦女庭訓 上杉彈正大弼治憲著

服飾漫語 田安中納言宗武著

歌學論叢 前田龍澤侯著

歴朝詩纂 松平大學頭頼寛撰

名侯歌文集 保科正之 堀田正俊其他

蘇明山莊句集 柳澤米翁侯著

鳥名便覽 島津薩摩守重豪著

古今錢貨譜 朽木近江守昌綱著

宴遊日記別録 柳澤美濃守信鴻著

創垂可繼 大關土佐守増業著

淺草寺誌 池田冠山侯著 

以下續刊 各冊定價別 詳細目録呈


文學博士福井久藏著〔内容見本呈〕
諸大名の學術と文藝の研究

帝國學士院研究補助の大著述

   菊判背革上製本函入、貴重文献筆跡別刷口繪附,八百頁函入、定價拾圓、送料卅錢
 本書は博士が徳川期に於ける學術と文藝の眞相を把握せむがためには、時代の主導勢力たる三百諸侯とこれを園繞する學者文人の遺作を盡く渉獵するの要あることを夙に認識せられ、本業の完成を企圖せられてより東行西走、よく諸侯の秘庫に參じて貴重なる資料を得、爲に博士によりて新しく存在を千古に掲げ得る名作名研究の發見されたるもの尠しとせず、これらは概ね逐次秘籍大名文庫として刊行を見る筈であるが、その熱意は途に前人未踏の本研究を大成せしめ、徳川期に於ける學術と文藝とはこ丶に初めて文化史的に綜合樹立された。名著名作の多くを引用し、貴重冩眞を挿入して記述は平明、現代の史家、文學者、科學者,軍人、歌人、俳人、茶人等を稗益すること多大なるものがある。
 内容一班
序論 (本書の成立)
第一 諸侯と儒學
  (藩學の興起)
第二 諸侯と神道
第三 諸侯と佛教
第四 諸侯と國學
第五 諸侯と歴史
第六 諸侯と地誌
第七 政令と教訓
  (一政治・二教訓)
第八 諸侯と兵學
  (一兵學一般 二馬・三犬追物等の騎射・諳侯と鷹)
第九 諸侯と科學一
   (一數學・二蘭學・三理化學)
第十 諸侯と科學二(一本草・二諸侯と錢貨)
第十一 諸侯と文學(一和歌・二連歌・三俳諧・四紀行文學・五園林丈學・六諸侯と戲文・七漢文學・八漢詩)
第十二 諸侯と藝術
  (一音樂・二繪画・三書道・四茶道と諸侯)
第十三 雜
 (一隨筆・二叢書)
總索引


昭和十二年十二月十日印刷
昭和十二年十二月十三日發行
秘籍大名文庫
定價壹圓貳拾錢
編輯者  |福《ふく》井《ゐ》久《きう》藏《ざう》
發行者
東京市麹町區下六番町四十八番地
  岡本正一
印刷者
東京市芝區西久保巴町五十番地
  石上文七郎
印刷所
東京市芝區西久保巴町五十番地
  青文舍印刷所

東京市麹町區下六番町四十八番地
發行所  圖書出版 厚生閣
         電話九段三二一八番
      振替口座東京五九六〇〇番


【岡島記】
「ことばのひとや」は『国書総目録』では補遺に載せられ、「語学」に分類されているが、解題にあるように、語学の書ではない。「倭名義考」などは語学の書としてもよいだろうか。

戸沢正令侯と其著作』
posted by うわづら文庫主人 at 00:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 資料 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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