2005年03月12日

安藤正次『国語音声学』(岩波講座日本文学)

例言
一、國語音聲學のすべてにわたる事項を限られた紙數のうちに要約することは、もとより不可能なことであり、さりとて、特殊項目の一二について詳説を試みるといふことも、専門家に限らぬ読者にとつては、蝋を噛むが如き感があらう。そこで、わたくしは、執筆に當つて、一般的の題目のうちから、基本的のものを選び、これを専門的に取扱ふ方針を立てたのである。
二、前項のやうな事情の下に筆をとつたのであるから、發音器官の構造とか、音聲の分類とかいふやうな、初歩的、啓蒙的の記述は、全然これを省略することにした。しかし、また、母音構成の理論といふやうな、あまりに専門的な基本問題にわたることも、なるべく触れないでおくことにした。要は中庸を得るにあると考へたからである。
三、結局、本篇は、國語音聲學とはいふものの、単音論だけの説述に止まつて、連音論に及ぶを得なかつたのは遺憾であるが、これはやむを得ぬ次第である。読者の諒承を希ふ。
  昭和六年十二月                                  臺北にて
                           稿者

第一章 一般音聲學と國語音聲學
音聲學は、普通に、言語に用ゐられる音音すなはち語音を研究の對象とする科學であるといはれてゐる。しかし、語音を研究の對象とするといつても、その對象の範囲は、場合によつて、いろ/\にちがつて来る。極端な場合についていへば、ある特定の個人の語音が研究の對象となることもあり、廣く人類全般の語音が研究の對象となることもあり得る。音通の場合について見ても、一方言の語音、一國語の語音、数國語の語音が、それ%\研究の對象となり得ることは、いふまでもない。仮に音聲學を一般音聲學と特殊音聲學とに分てば、世界の人類を通じて見出される、すべての音語の語音に關する諸種の現象を研究するのは、一般音聲學とよばれるべきものであり、一方言、一國語、数國語の語音に關する諸種の現象を研究するのは、特殊音聲學と名づけられるべきものであらう。この意味における一般音聲學は、一般的に、世界の音語に用ゐられる「こゑ」や「おん」や、これに伴ふ音色・高さ・強さ・長さなどを研究の對象とするのであり、特殊音聲學といふのは、ある特定の國語または方言に用ゐられる「こゑ」や「おん」や、これに伴ふ音色・高さ・強さ・長さなどを研究の對象とするのである。

ando_onseigaku.pdf


posted by うわづら文庫主人 at 20:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 国語学論文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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