一、校訂にあたりては、明かに定家の誤寫と思はるゝものの外、みだりに私意を加へて改むることをせす。出来得るかぎり、原本を忠實にうつさむことに努めたり。
但し假名遣はこれを統一し、句點を施し、假名には多く漢字をあて、一般読書の便を計りたり。しかれども、漢字をあっる際には、原本の假名を右傍にとどめて、その面目を示したり。
一、別に附録として、藤原惺窩が眞名をあてて校訂せしといふ妙壽院本の本文を加へたり。妙壽院本は、已に季吟の「抄」に引かれたれど、全本未だ學界に紹介せられず、今校訂者所蔵の古寫本によりて、その全文を示し得たるは、私かに欣びとする所なり。但し、家蔵の本は巻頭一葉を缺くをもって、この部分は、刈谷国書館藏、村上忠順舊藏の本をもつて補へり。
一、本書の校訂にあたりては、畏友松田武夫、大津有一両氏の助力を得たり。こゝに記して感謝の意を表す。
昭和五年二月十一日 校訂者識
池田亀鑑・土佐日記・岩波文庫.pdf
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